瀬戸内海の小さな島、粟島にある漂流郵便局。謎めいたネーミングが興味をそそる。

種を明かせば2013年に開催された瀬戸内国際芸術祭で久保田沙耶が制作したアート作品である。アート作品とは言っても見かけは木造平屋の、古くからある郵便局そのものである。元々は本物の郵便局だった建物を改装して「作品」化したものなので当然なのだが。

郵便局とはいっても現在は日本郵便とは関係がない。簡単に言えば実際の宛所がない手紙の留め置き場である。故人あて、初恋の人あて、未来の子孫あて、想い出の品あて、など届けたくても届けられない手紙が全国から届く。届けられた手紙はやはりアート作品であるブリキ製の「私書箱」に保管されている。しかもこの私書箱はピアノ線に繋がれて建物内の中空に浮かんでいる。まさに「漂流」である。

訪問者は誰でも手紙を読むことができる。当初は芸術祭期間中だけ「開局」の予定だったが、その後もたくさんの手紙が届くことから漂流郵便局は継続されることになった。どこかロマンチックで少し悲しい漂流郵便局。今やアートの島として有名になった直島と併せて瀬戸内アートめぐりはいかがだろうか。

粟島へはJR予讃線詫間駅から近い須田港から一日8便の定期船で15分。郵便局は粟島港から徒歩15分である。